弟は、兄から30年以上逃げていた。
両親が生きている時は、密かに兄に見つからない様にお金をせびりに。
両親の葬式にも顔を出さなかった。死んだことも知らないのかも知れない。
自分の子供も捨てて、姿を消し、行方も分からぬ。
兄弟が再開したのは病院のベットの上。
意識も無く、命の炎も消え掛かっていた。
頬はこけ、痩せ細り、頭はボサボサの白髪。
30年ぶりの弟の顔に兄は息を呑む。
「親父の顔。死んだ時親父の顔にそっくりだ・・・」
自分より若い弟と死んだ父の姿が重なる。
意識の無い弟に、兄はいつもと同じ大きな声で
「おい、来たぞ。やっと見つけたぞ。おい!
俺が分かるか。おい!」
ICU内では静かにして下さいと看護師に言われるが、兄は気にしない。
弟の所持品からは、競艇の紙と鉛筆が出てきた。
「あのバカ、まだギャンブルばかりやっていたのか・・・」
12月の寒い冬の中、弟は心肺停止状態で発見された。
今は、医療の力によって生かされている。
兄には2人の弟がいた。
1人は、兄の目の前で倒れて亡くなった。心筋梗塞。
そして、もう1人の弟も今目の前で意識も無く眠っている。
兄は医者と今後の事を話し、そそくさと帰路へ付く。
兄は例え相手が国家権力、暴力団だろうが、脅えもせず、涙も見せず
自分を意志を貫き通す。
兄が泣いた姿は、両親、弟の葬儀以外に私は見ていない。
*このお話しはフィクションです
兄弟
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